

私が提唱しているサクセスフルエイジングのための道筋を改めて整理すると、次の3つのステップとなります。
(1)エビデンス(科学的な証拠)に基づいた“脳を育てる方法”を生活に取り入れる。
(2)それにより脳の構造と神経回路の流れを自分のプラスになるよう変えることができる。
(3)その結果、考え方や勉強・仕事効率が改善し、幸せ度もアップ。さらに未来の運命も好転させる。
最終講義では具体的な『育脳計画』成功法のカギとして、まず「食事」の重要性をお話しましょう。あなたは日々の食事から、しっかりと抗酸化成分を摂取できているでしょうか? 新しく作られた脳細胞の酸化を防止するには、“脳のサビ止め”として野菜や果物などから抗酸化物質を摂ることが欠かせません。たとえば、リンゴに含まれるフラバノールという抗酸化物質グループに含まれるエピカテキンは、シナプスの可塑性を向上させて記憶力を増強したり、脳内血流を改善、さらに血管の新生を促進することがわかっています。エピカテキンは、温州ミカン、サクランボ、ココアにも含まれる成分です。
いっぽうで、脳力を高めるには食事を摂りすぎると逆効果。むしろカロリー制限をしたほうがよいのです。サルの実験では、普通レベルで飼育したサルよりも、70%ほどにカロリー制限したサルのほうが、運動や高次脳機能に関与する場所の萎縮が少なかったのです。BDNFという神経栄養因子の分泌がカロリー制限により促進されると考えられています。
こうした科学的事実を知っておくことで、シニアの食生活の指針を立てることができます。右に抗酸化力の高い食べ物と成分の例をあげましたので、ぜひヒントにしてください。

次にあげる脳力向上のポイントは、体を動かすこと、つまり「運動」です。実は、運動こそが最も強い脳細胞新生力を発揮する刺激と考えられています。運動した当日には早くも脳細胞の新生促進がはじまるのに加え、新しく生み出された脳神経細胞は、質のよいLTP(long-term potentiation)が発生しやすいのです。
さらに、運動によって脳内で神経や血管にとって栄養となる因子の分泌が刺激されることで、脳の可塑性や血管新生が促されますから、神経の機能維持にも有効であることが明らかになっています。
具体的におすすめなのは、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどの有酸素運動です。有酸素運動は適度なフリーラジカルを発生させ、これが脳細胞内のDNA修復酵素や抗酸化酵素を誘導します。また、血管壁では適度に一酸化窒素が産生されて脳血流が増え、これらの作用によって、先ほど述べたように脳機能が活性化するのです。ただ、あまりにもハードな有酸素運動をすると一酸化窒素の濃度が高くなりすぎて有害ですからご注意ください。

サクセスフルエイジングの最終目標はいったい何でしょうか? それは、まず自分が「幸福になり」さらに他の人にまで「幸福を広める」ことだと私は考えます。もちろん、ここで人生・哲学論でまとめようというわけではありません。あくまでエビデンス(科学的な証拠)をもとにお話をしましょう。
ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン博士が、年収と幸福度の関係を調査したところ、年収が相対的に低めの人の場合、年収が約100万円上がるごとに幸福度も上がるのですが、年収約500万円を超えて、ある程度の生活水準が維持できるようになると、その後はいくら年収がアップしても、統計的な幸福度に有意差は認められませんでした。これは、収入が増える分、仕事も増えてメンタルストレスも増え、結果的に幸福度の上昇を打ち消してしまうのが原因と見られています。
他にも、購買力の上昇と生活満足度が、正比例で相関しないという調査結果はいくつもあります。
それでは、「幸福度を上げる方法」とはいったいどんなものなのでしょうか。米国で行われた調査結果を示しましょう。
<エビデンスのある「幸福度を上げる方法」>
(1) 他人のためにお金を使う
(2) 親切にする
(3) 感謝する
(4) 許す
(5) 自分の尺度で考える
(6) 細部より全体で見るようにする
(7) その日の良い出来事を3つ記録する、など
7番目の、“three good things”と呼ばれるテストでは、被験者はその日にあったよかったことを3つメモします。1週間後にもう一度、21個のメモを読み返してみると、被験者の幸福度は有意に上がり、抑うつ症状は減少しました。そしてテスト終了後も、半数の被験者が半年以上も毎日”three good things”を続けたのです。幸福を身近なところに見つける、とてもよい習慣です。
1番目にあげた「他人のためにお金を使う」も、人の幸福度を著しく高めることがわかっています。今回の連載では、サクセスフルエイジングに役立つ最新の知見とエビデンスを多少難解な専門用語も交えながらお話をしました。皆さんの明日からの人生をより一層、力強く健康的にする参考にしていただければと思います。
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